高橋 信 一覧

ジョウビタキ

北へ帰る里の冬鳥

ジョウビタキ(スズメ目ツグミ科)
 冬の人里で見られる鳥の中で、ジョウビタキはもっとも親しまれている冬鳥の一つだ。名は知らずとも、きっとどこかでその姿や声を聞いているはず。
 秋が深まるといち早く日本に渡ってきて、人家や人工物にも寄ってくる。胸から腹にかけて美しい橙色、黒い翼にワンポイントの白斑が目立つのがオス。尾羽を小刻みに震わせて、「ヒッヒッヒッ」とよく通る声で鳴く。
 ジョウビタキの名はオスの頭に由来している。銀色の頭を白髪に見立て、お爺さんの意味である「尉」(じょう)を充てた。近所のお節介やきのお爺さんのような、いつもそばにいて憎めない存在と言えば、確かにそんな雰囲気を持った鳥かもしれない。
 メスはオスとうって変わって地味な褐色をしているが、翼の白斑はオスと同じようにある。オスが派手な分メスの存在感は薄いが、野鳥ファンにはメスの方が人気のようだ。オスでは黒い顔の中に埋もれてしまうクリッとした目が、メスのチャームポイントになっている。
 越冬中、ジョウビタキは縄張りを持つ。縄張りの領域にはいつも同じ個体が飛び回っては鳴き声を出し、ほかのジョウビタキを寄せつけないようにしている。だから冬の間じゅう、この鳥を同じ場所で見かけることになるのだ。
 ジョウビタキは春が近づくと海に出る。大概の冬鳥は同じように一旦は海を目指す。海にはそうして集まった仲間がたくさんいて、北の繁殖へと海沿いに連れ立って帰ってゆくのである。ジョウビタキがいつの間にか里からいなくなるころ、野山では南から戻ってきた夏鳥たちの歌声が聞こえ始める。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2007年4月15日(日)掲載


メジロ

ウグイスと間違わないで

メジロ(スズメ目メジロ科)
 メジロは里の鳥として古くから親しまれてきた。目が白いからメジロ。直感的である。メジロにまつわるエピソードの中で、ウグイスとの混同は今でも続いていて、いまさらなところもある。鴬色といえば深い緑色を思い浮かべるが、実際のウグイスの羽根色は地味な茶褐色である。鴬色と呼ばれる緑は、実はメジロの羽根色とよく一致する。
 花札に「梅に鴬」がある。あれがウグイスだと思っている人が多い。改めて見て欲しいのだが、描かれているのは何とも不思議な鳥である。背中は緑で、顔から下が黄色、目は赤である。こんな鳥は日本にはいない。ましてや全身褐色のウグイスとは似ても似つかない。絵柄だからという視点で見ても、ウグイスとはほど遠い。この鳥はきっとメジロを描いたものだ。目が白いという一番の特徴がないが、背中の緑はメジロと一致する。
 そもそも、ウグイスが梅の木に止まることはまずない。冬のウグイスは笹藪の中に身を潜めて地面を徘徊している。一方のメジロは、花の蜜が大好物。真冬に咲くツバキやサザンカに飛来しては、花にくちばしを突っ込んで蜜を吸う。梅が咲けば梅の花にも寄ってくるのがメジロである。
 メジロは冬の花から蜜を頂くかわりに、虫のいないこの季節の大切な花粉媒介者として役立っている。ウグイスとともに身近な鳥ゆえの混同が続いているが、庭木にもよくやってくるメジロの益鳥としての一面を知ってみるのも面白い。鴬色をした目の白い小鳥を見かけたら、今度は間違えずにメジロと呼んでやってほしい。メジロは決して「ホーホケキョ」とは鳴かないのである。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2007年2月25日(日)掲載


田んぼの学校 1月

「里山で野鳥観察 雪遊び」
◆日時  2007年1月14日(日) 9:30~12:00
◆参加者 70人(市民研メンバーは30人)
◆天気 雨
新年最初の田んぼの学校は「里山で野鳥観察」。計画では雪遊びも入っていましたが、雪が全然降らない暖かい冬が続いています。昨年度の同じ野鳥観察会は反対に大雪の中で行いましたね。

シアタールームで30分ほど、高橋研究員が野鳥に関する次のような話をしました。
(1)一年中いる鳥(留鳥)、春から夏の間見られる鳥(夏鳥)、秋から冬の間見られる鳥(冬鳥)
(2)渡り鳥(夏鳥と冬鳥)の渡りのルート
(3)今回の観察会で見られるかも知れない鳥を写真見ながら説明
(4)冬の田んぼに水を張ると、コウノトリや水鳥が喜んで利用します。コハクチョウが越冬するようになりました。(ただ今2羽が越冬中)
(5)円山川の工事で野鳥たちはどうなる?
  ・良いこと:浅瀬が作られるのでコウノトリや水鳥の餌場ができる
  ・悪いこと:河川敷の木が切られてタカやフクロウの止まる場所がなくなる
(6)まとめ:冬は野鳥観察のしやすい季節です。外に出ていろんな鳥を見ましょう

岩本研究員、大槻研究員の引率で郷公園の野鳥観察に出かけました。最初は西公開ケージの谷。ジョウビタキのメスが最初に姿を現し、次にホオジロが木の枝に止まりました。

ホオジロが同じ場所で長い間じっとしてくれたので、スコープに入れてみんなで順番にのぞいてみました。大きくしてみるとホオジロも綺麗でかわいい鳥です。

東公開ケージに向かって移動中。文化館前の田んぼのあぜにツグミがじっとしていたのをスコープでも観察できました。水を張った田んぼの中にはセグロセキレイがジジッと鳴きながら餌を探していました。コウノトリが1羽みんなの上を西に飛んで行きました。

西宮から来られたゲストの皆さんと合流。東公開ケージの観察小屋で雨をしのぎながら、湿地の様子を観察しました。人が沢山やってきたので、びっくりしたカワウが飛んで逃げて行きました。湿地にはコガモがたくさんいましたね。少し上の湿地には放鳥コウノトリが2羽餌を探していました。

やがて、そのうちの一羽が飛んで谷から出てゆきました。
文化館に戻り、今日観察できた鳥の名前をみんなで写真を見ながら確認して終りにしました。今日の大鍋は鹿と猪の肉が入ってましたよ。熱い汁を飲んだら、雨の中を歩いて冷えた体がポカポカと暖まりました。
今日観察した鳥:
1.ジョウビタキ♀
2.ホオジロ
3.ツグミ
4.ヒヨドリ
5.セグロセキレイ
6.ハシボソガラス
7.アオサギ
8.カワウ
9.コガモ
10.コウノトリ
※今回の行事は県環境学習課関連事業の一環として行いました


オオマシコ

初雪の山に赤い鳥

オオマシコ(スズメ目アトリ科)
 5年以上前のことだったか、確かな記憶は残っていない。ある冬の日、散策中の川べりで真っ赤な小鳥の群れと遭遇した。ヤナギの枝に僅かな時間止まっただけで、すぐに飛んで行ってしまった。双眼鏡をあてる間も、もちろん撮影する余裕などまったく無かった。オオマシコとのあっけない最初の出合いだった。
 マシコは漢字で「猿子」と書く。赤い羽根模様が猿の由縁。同じアトリ科のベニマシコは、雪が降ると比較的簡単に河原や林縁で見ることができる。赤い鳥を見つけるのは冬鳥観察の楽しみの一つだが、オオマシコとの再会は無いまま過ぎて行った。
 遅かった里の紅葉も盛りを過ぎ、師走に入ってからは北西の季節風が吹き出す日が増えた。「雪起し」の雷が鳴った翌朝、冷たい雨は山地で初雪に変わった。冬鳥を求めて先に山に向かった仲間から、オオマシコ確認の連絡が入った。あたりの積雪は15センチとのこと。冬タイヤに履き替え、はやる気持ちで山に走った。
 晩秋の佇まいを残す雑木林に、初雪が綿帽子のようにかぶっている。斜面にオオマシコの4羽の群れが出てきた。深紅のオスが2羽、若いオスが1羽、メスが1羽。ハギのしなやかな細枝につかまって、次々にその実をついばんでいる。
 雪景色の中で再会したオオマシコの赤は実に鮮やかだった。本州中部以北で越冬し、このあたりにはめったに飛来しない冬鳥。この冬は南下してきたオオマシコの数が例年になく多い様子だ。冬枯れの中にはっとするほど赤い鳥を見つけたら、きっとあなたも嬉しくなってしまうに違いない。さあ、冬の野山に出かけてみよう。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006年12月24日(日)掲載


ツルシギ


ツルシギ(チドリ目シギ科)
 春と秋の年2回、移動の途中に豊岡盆地に立ち寄る渡り鳥観察を楽しみにしている。特に注目しているのが、六方田んぼの湛水田だ。田んぼに水を張れば沢山の水生生物が住むようになり、渡り鳥が餌の補給にそこに下りてくる。
 今は人の力なしで田んぼに水を張ることは難しくなった。コウノトリの餌場確保という名目があって、休耕田に水を張ったり冬季湛水が行なわれつつあるが、湛水田は豊岡盆地上空を渡ってゆく野鳥たちにとっても貴重なオアシスを提供することになる。
 六方田んぼの河谷放鳥拠点から、このたび4羽のコウノトリが放たれた。拠点の周囲は常時水が張ってあり、放鳥コウノトリたちがいつでも餌場として利用できるよう配慮されている。そこに見慣れないシギが1羽やってきた。
 遠目には、この時期よく観察されるアオアシシギだと思っていたが、朱色の脚、まっすぐ長く伸びるくちばしからツルシギと同定した。おそらく今年生まれの幼鳥と思われるが、東南アジアへの初めての越冬旅行の途上。
 警戒心の薄い鳥で、餌採りに夢中の時は10m以内の距離にまで寄ってくる。コウノトリの餌のとり方とよく似ていて、長いくちばしを水中に突っ込んだまま、左右に振って触覚で獲物を捕らえる。水生昆虫が中心で、ときどき小魚も捕まえた。
 我が国でのツルシギの観察例は多くなく、特に秋の観察は少ないという。但馬でも過去数例、春の観察があるようだが、秋の観察例は今回が初めてかも知れない。脚と下くちばしの朱色を除けば地味な鳥だが、春の渡りでは真っ黒に換わった繁殖羽根の姿を見ることができる。次回はぜひ春に出会ってみたいものだ。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006年10月29日(日)掲載


ツキノワグマ

しなやかな森の住人
ツキノワグマ(食肉目クマ科)

 6月最後の週末、朝7時半。梅雨空を割って少し光が射した。谷のどん詰まり、スギ林横に車を止めて助手席のデジタルカメラに手を伸ばした。先ほど、下流で撮ったばかりのヤマセミの写真をチェックする。
 渓流を横断するワイヤーロープに、3羽のヤマセミを見つけたのだ。どうやら1羽のメスをめぐり、2羽のオスが争っている場面のようだった。飛び去るまでの短い時間で、それなりに撮れたのが嬉しかった。
 液晶画面の写真を順送りしていると、開け放った窓から「バキッ」という、しかし十分に神経を使った断続音が近寄ってきた。その瞬間、確かな予感がした。
 カメラを撮影モードに切り替え、着けたままの望遠レンズを右の窓越しにすばやく突き出した。ファインダーを覗くのと、その四角い視野に黒い影が左へ動くのが同時だった。紛れもなくツキノワグマを、私はレンズにとらえていた。
 相手との距離は20メートル。しかもこちらは車の中。恐怖感はまったく無かった。カメラの設定を考える間もなく、シャッターボタンを押していた。相手はすでにこちらに気付き、大慌てで逃げ出していたからだ。
 3回目のシャッターを切ったところで、ツキノワグマは一瞬こちらを向いたあと視界から消えた。その動きは実にしなやかで、あたりに大型の獣が走り去った気配は無かった。一瞬の足音だけを残し、森はすぐにもとの静寂を取り戻した。
 ツキノワグマによる人身事故が絶えない。彼らが人里に出てくる理由については、すでにいろいろと言われている。猛獣であることには違いないが、私が目の前で見た森の住人は、意外なほど小さく、そしてとても臆病な生き物だった。そんな彼らとうまく折り合って暮らす方法を、私たちはこれからも模索し続けなければならない。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006/8/13(日) 掲載


アリスイ

は虫類の威を借りる鳥

アリスイ(キツツキ目キツツキ科)
 一年を通じて野鳥観察をしていると、いつごろ、どのあたりに、どんな鳥がやってくるのかが分かってくる。越冬のために北から下りてくる冬鳥や、繁殖のために南から戻ってくる夏鳥は、毎年ほぼ同じ行動を示すので予測もしやすい。
 渡りの一時期に立ち寄る鳥を旅鳥と言うが、旅鳥の行動パターンは一定しないことが多い。ある種の観察頻度の多い年は、その鳥の「当たり年」というような言い方をする。年によって見れたり見れなかったりするから、野鳥観察も飽きずに続いているのかも知れない。
 4月半ばの豊岡盆地は、行く鳥、来る鳥が混じりあって、一年で最も野鳥観察が面白い時期にあたる。ある日、六方川沿いの芽吹いたヤナギの葉陰に、ひょっこり出てきた鳥に驚いた。図鑑やインターネットの写真でしか見たことのない鳥だったが、ひとめでアリスイだと分かった。ウロコ状の羽根、太長くよく回る首。その特徴的なフォルムは他の鳥と間違えようがない。
 生き物は様々な方法で天敵から身を守る。アリスイは自らの姿をは虫類に似せることで、相手を脅す方法をとった。キツツキの仲間であるが、そういわれてもイメージできないほどにユニークな存在である。その名の通りアリが好物だが雑食性。日本では東北や北海道で繁殖。他のキツツキがあけた穴を巣として利用する。
 ジンクスという言葉があるが、実はアリスイの学名に由来している。ヨーロッパではその姿態から不吉な鳥とされ、この鳥を見ると悪いことが起こると信じられてきた。アリスイにしてみれば不本意だろうが、相手を気味悪がらせるこの鳥の作戦は見事に成功しているともいえる。
 なかなか出会える鳥ではない。渡りの季節にひっそりとアリスイがここに立ち寄っていることが分かれば、次の出会いがまた楽しみになる。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006/6/19(月)掲載


タカブシギ

春の湛水田の常連

タカブシギ(チドリ目シギ科)
 六方田んぼで始まった冬季湛水。田んぼに水を張ったまま初めての冬を越した。強い寒波の影響で、この冬の渡り鳥たちの動きに異変があった。本来は当地で越冬するはずのツグミやホオジロの仲間が姿を見せなかった。そのかわりに、豪雪を逃れて従来の越冬地から南下してきたコハクチョウの群れが、湛水田をねぐらにしながらここで一冬を過ごしたのである。
 冬季湛水が定着すれば、いずれコハクチョウの越冬が見られるだろうと思っていた。気象条件の影響があったとはいえ、あまりにも早く結果が出たのには驚いた。
 春になり湛水田の水がぬるむころ、南の越冬地から北の繁殖地に向かうシギやチドリの渡りの群れが通過してゆく。彼らにとって、湛水田は翼を休め餌を補給するオアシスだ。渡り鳥はこうしたオアシスを中継地としながら北帰行を続ける。
 湛水田の常連といえばタカブシギだろう。体長20センチほど。漢字で鷹斑鴫と書く。羽模様がタカに似ていることから命名された。数羽の群れで行動し、湿地の中を歩き回って泥の中の虫を食べる。人が近づくと「ピピピピ」と高い声で早口で鳴きながら飛び立つ。飛んだときに腰の白が目立つのもタカブシギの特徴のひとつ。
 最近は田植え時期が遅くなった。田んぼに水が張られる頃には渡り鳥の移動のピークが過ぎてしまっている。その意味でも、冬季湛水田が渡り鳥に果たす役割は大きいのである。
(文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信)
※2005年4月30日(日)掲載


リンクバナー

新しいリンクバナーを作りましたので必用な方はお使いください。
上田代表が描いたコウノトリのイラストを加工したものです。小さい方のバナーはよくわかりませんが、大きい方のバナーを見ると上田画伯のグッドセンスがうかがい知れますね。
 size:88×31
 size:234×60


ノスリ

馬糞鷹の汚名返上

ノスリ(タカ目タカ科)
 ノスリというタカがいる。トビより一回り小さく、羽根はトビより明らかに白いから、気をつけて見れば識別は容易である。但馬地方には越冬のために北から下りてくる冬鳥。河川敷の立ち木や田んぼの電柱に止まる姿をよく見かける。彼らの主食は野ネズミ。バッタなどの昆虫や小鳥も捕らえる。
 ノスリの名は、獲物を追って野を擦るように飛ぶからという説があるが疑わしい。漢字では「狂」の下に「鳥」と書いてノスリと読ます。北日本では馬糞鷹(まぐそだか)の異名もあるように、タカの中ではさげすんだ扱いを受けてきた。
 寒波の緩んだ週末の午後、池の隣りの田んぼがにぎやかだった。トビの群れが空を舞い、電線にはカラスが並んでカァカァ鳴いている。群れの視線は田んぼの一点に集中していて、そこには一羽の若いノスリの姿があった。
 接近して観察を続けると、ノスリがわしづかみにしている獲物は、40cmは下らない大きなコイであった。このコイは隣りの池からやってきたに違いないが、ノスリが魚を食べるとは知らなかった。逆に、ミサゴというタカは魚しか食べない。この池はミサゴの狩場になっていて、空から急降下しては魚を捕らえるのをよく見る。
 今回の場面は、最初にミサゴが池の中で捕まえたコイがあまりに大きく、運び切れずに田んぼに落としたものをノスリが横取りした。あるいは、トビとカラスが横取り合戦をしているところに、ノスリが割り込んできた。このように考えるのが自然だろうが、ひょっとしたらノスリ自身が池から掴み上げてきたことも否定はできない。
 他の鳥を寄せ付けず、口の周りを血に染めながらバリバリとコイに食らいつくノスリの眼光は、猛禽(もうきん)の威厳に満ちていた。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006年2月26日(日)掲載


1 48 49 50 51 52 53