オオマシコ

初雪の山に赤い鳥

オオマシコ(スズメ目アトリ科)
 5年以上前のことだったか、確かな記憶は残っていない。ある冬の日、散策中の川べりで真っ赤な小鳥の群れと遭遇した。ヤナギの枝に僅かな時間止まっただけで、すぐに飛んで行ってしまった。双眼鏡をあてる間も、もちろん撮影する余裕などまったく無かった。オオマシコとのあっけない最初の出合いだった。
 マシコは漢字で「猿子」と書く。赤い羽根模様が猿の由縁。同じアトリ科のベニマシコは、雪が降ると比較的簡単に河原や林縁で見ることができる。赤い鳥を見つけるのは冬鳥観察の楽しみの一つだが、オオマシコとの再会は無いまま過ぎて行った。
 遅かった里の紅葉も盛りを過ぎ、師走に入ってからは北西の季節風が吹き出す日が増えた。「雪起し」の雷が鳴った翌朝、冷たい雨は山地で初雪に変わった。冬鳥を求めて先に山に向かった仲間から、オオマシコ確認の連絡が入った。あたりの積雪は15センチとのこと。冬タイヤに履き替え、はやる気持ちで山に走った。
 晩秋の佇まいを残す雑木林に、初雪が綿帽子のようにかぶっている。斜面にオオマシコの4羽の群れが出てきた。深紅のオスが2羽、若いオスが1羽、メスが1羽。ハギのしなやかな細枝につかまって、次々にその実をついばんでいる。
 雪景色の中で再会したオオマシコの赤は実に鮮やかだった。本州中部以北で越冬し、このあたりにはめったに飛来しない冬鳥。この冬は南下してきたオオマシコの数が例年になく多い様子だ。冬枯れの中にはっとするほど赤い鳥を見つけたら、きっとあなたも嬉しくなってしまうに違いない。さあ、冬の野山に出かけてみよう。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006年12月24日(日)掲載