ノスリ

馬糞鷹の汚名返上

ノスリ(タカ目タカ科)
 ノスリというタカがいる。トビより一回り小さく、羽根はトビより明らかに白いから、気をつけて見れば識別は容易である。但馬地方には越冬のために北から下りてくる冬鳥。河川敷の立ち木や田んぼの電柱に止まる姿をよく見かける。彼らの主食は野ネズミ。バッタなどの昆虫や小鳥も捕らえる。
 ノスリの名は、獲物を追って野を擦るように飛ぶからという説があるが疑わしい。漢字では「狂」の下に「鳥」と書いてノスリと読ます。北日本では馬糞鷹(まぐそだか)の異名もあるように、タカの中ではさげすんだ扱いを受けてきた。
 寒波の緩んだ週末の午後、池の隣りの田んぼがにぎやかだった。トビの群れが空を舞い、電線にはカラスが並んでカァカァ鳴いている。群れの視線は田んぼの一点に集中していて、そこには一羽の若いノスリの姿があった。
 接近して観察を続けると、ノスリがわしづかみにしている獲物は、40cmは下らない大きなコイであった。このコイは隣りの池からやってきたに違いないが、ノスリが魚を食べるとは知らなかった。逆に、ミサゴというタカは魚しか食べない。この池はミサゴの狩場になっていて、空から急降下しては魚を捕らえるのをよく見る。
 今回の場面は、最初にミサゴが池の中で捕まえたコイがあまりに大きく、運び切れずに田んぼに落としたものをノスリが横取りした。あるいは、トビとカラスが横取り合戦をしているところに、ノスリが割り込んできた。このように考えるのが自然だろうが、ひょっとしたらノスリ自身が池から掴み上げてきたことも否定はできない。
 他の鳥を寄せ付けず、口の周りを血に染めながらバリバリとコイに食らいつくノスリの眼光は、猛禽(もうきん)の威厳に満ちていた。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006年2月26日(日)掲載