カワラハハコ
カワラハハコ キク科
旧の赤崎橋があった頃、そこから丸石河原を眺めるのは楽しかった。季節を変えた写真がたくさん残っている。川が川らしい姿を見せる場所の一つだった。河原に降りるとそこには河原特有の様々な植物が生育し、その中にカワラハハコもあった。
かつては多くの川にあったカワラハハコだが、兵庫県の太平洋側からは姿を消している。兵庫県ではもはや円山川水系にしか残っていないらしい。そんな中で、赤崎の丸石河原は、国土交通省の管轄内で最も見事な群落がある場所だった。このことは国土交通省にも伝えた。国土交通省にはすでに多自然型川作りの実績も多く、私はたとえ橋の付け替えがあってもここの群落は安泰であると信じていた。
ところが、落とし穴があった。新赤崎橋は農道橋なので、農林水産省が関わる工事だったのだ。工事に際して生き物に対する配慮は全くないように見えた。丸石河原を重機が動き回って、微妙な地形の変化はなくなり、丸石河原の植物たちは壊滅した。さらに丸石河原の対岸に小規模な河畔林があったがこれもなくなった。
私は赤崎の丸石河原にカワラハハコを再生させたいと思う。可能性はある。上流の養父市には見事な群落が残り、そこから下流にかけて点々と群落が残っており、種子の供給が期待できる。丸石河原が元に戻ればいいのだ。
昨年の台風23号で川の環境はリセットされた。浅くなっていた淵は深く掘られ、石の河原はかつてない広さになった。私は赤崎の河原が元に戻っているに違いないと期待を込めて見に行った。まだカワラハハコが定住できるような微妙な起伏はできていなかったが、重機で踏み固められていた頃と違って、石が自然に転がっていた。少し人間が手助けしてやればきっとカワラハハコが再び花を咲かせるに違いないと思う。
追記
掲載後すぐに養父市の方から電話があった。
昔は広谷あたりでもたくさんあったのだが今では見かけないということだった。
当時は「たかつか」という名前で呼んでおり、草餅に使ったのだそうだ。ヨモギよりもよほどよい草餅ができたと話されていた。
ハハコグサを草餅に使うのは知っていたが、これは知らなかったのでうれしかった。『日本植物方言集成』八坂書房をみてみると新潟県で「かわらもちぐさ」というそのものズバリの名前があった。
ちょっと気になったのは、この植物を押し花に使うそうで、市販されているというお話だった。上に書いたように、絶滅寸前の植物である。いろいろな工作は栽培したものを使って行ってほしいものだ。
栽培は容易だと思う。円山川流域で栽培して、草餅を作ったり押し花を作ったりしても面白いと思う。