進む河川工事;治水だけじゃない

  
 円山川に沿って豊岡市街地へ向かうと否応なしに工事が目に入る。川底を深く掘ったり、川幅を広げたりして、洪水が少しでも早く海へ流れ出るようにする工事である。今回の工事が終われば、平成16年に大きな被害をもたらした台風23号級の台風が来ても床上浸水が起きないようになるはずである。1)ところで、この工事にはこれまでの工事とはちょっと違ったところがあるのだが、それにお気づきだろうか?
 ご存じのように、円山川は近畿有数の自然の豊かな川である。円山川は68kmと1級河川の中では最も短い部類だが、魚の生息種数、植物の生育種数などが近畿でトップクラスであり、自然度の高さは際だっている。
 この豊かな自然を失わないために、防災のための工事と並行して、豊かな自然を守りさらに豊かにする自然再生の工事2)が行われている。
 掘削という土を取り除く工事を行っているのにその土が残されている。なぜあんな山を作るのだろうか? あの土の山は、表面の土が集められてできている。表面から深さ20~30cmくらいまでの土には、その場所に生えている植物たちの種子や地下茎などが大量に含まれている。この土をまき出せば、その土があった場所の植生が再生する。うまくすると土を集めた時には生えていなかった希少種の種子を目覚めさせることもできる。3)
円山川では、高水敷きを水位線まで掘り下げて、そこに表土をまき戻すという工事が10年ほど前から行われており、すでに希少種を出現させるという成果をあげている。4)今回は、様々なケースのまき戻しが行われ成果が期待されるが、激甚災害の工事は5年間で終わってしまう。生物の都合を無視して、駆け足のような工事が一方的に進んでいくという側面は否定できない。最大限の知恵を絞っているが、どんなことが起きるのか不安が大きい。5)

1) 台風23号級の条件で床下浸水は仕方がないということである。それ以上の規模の台風であれば当然床上浸水は生じる。
 思考実験としては、川を深くする、川幅を広くする、川の中に遊水池を作るなどの今回の対策以外にも、川の外に遊水池を作る、家に高い下駄を履かせる、水の来るところからは引っ越すなどの対策もあり得るが、今の法律の枠組みでは非常に難しい。
2)自然再生と呼ばれる工事である。自然再生とは、自然環境の保全・復元を行うことである。
 自然再生のもとになっている考え方にミティゲーションというものがある。ミティゲーションで取られる具体的な処置には、「回避」、「低減」、「代償」があり、最も望ましいのは「回避」である。しかし日本では、はじめから「代償」しか考えていない計画が余りにも多い。
3)最も避けないといけないことは、表土を剥いで目覚めさせた希少種の種子を消費してしまうことである。発芽することで土の中の種子の数は減る。この種子を供給しないといけない。そのためには発芽した植物を成長させて花を咲かせ、種子を散布させないといけない。途中で枯らしてしまうと無意味に希少種の種子を消費したことになる。
4)タコノアシ、ホソバイヌタデ、ミクリ、ミズアオイ、マツカサススキ、サデクサ、ヒメシロアサザ、ヤナギヌカボなど出現した希少種は多い。効果的な手法であることは確認できたが、数年たつとこれらの植物は姿を消す。流域全体でどのように管理していくのかという課題が出てきている。
5)激特は5年間。緊急治水対策は10年間と年限が決まっている。各地で一斉に本来なら30年とか40年かけて行われるはずだった工事が行われる。これは明らかに生物のリズムにはあっていない。同時に、同じ手法で、広い場所で、というのは均一な環境を作り出してしまう。生物は微妙な環境の違いを上手に利用しているので画一な環境でははじき出されるものが多く出る。