力強い「とのさん」

トノサマガエル(アカガエル科)

 トノサマガエルほど身近な生きものはいない。僕も幼少の頃、田んぼでよく追いかけていた。「とのさん見っけ!」。トノサマガエルのことを当時の子供たちは「とのさん」と呼んで、その大きな体と素早い動きに夢中になった。逃げないように両手でぎゅっと握る。そのときの力強い「とのさん」の感触を、今でもよく覚えている。
 田んぼに水が湛えられた5月、僕はトノサマガエルを撮影しようと田んぼに出かけた。畦を歩くと、ピョンピョンとカエルが跳ねる。でも、これはたいていアマガエルだ。トノサマガエルは跳ね方が違う。「ガサガサ、ピョーン、ドボン」だ。大きな跳躍で田んぼの中に飛び込むと、雲隠れの術のように泥から泥へと遠ざかってしまう。大きな体の割に警戒心が強く、なかなかフィルムに収まろうともしてくれないのだ。
 そこで、僕はある作戦を考えていた。鳴いて縄張りを持つオスなら、逃げてもまた同じ場所に戻ってくるかもしれない。僕はたくさんの鳴き声のするすぐそこまで行って、腰を据えた。彼らに持久戦を挑んだのだ。こうして彼らとの駆け引きが始まった…。
 彼らはドボンと水中に潜ったまま、なかなか浮上してこない。ところがしばらくすると、1匹また1匹と、水面からひょこっと顔だけ出して再び鳴き始めたのだ。作戦はあっさり功を奏した。シャッター音を重ねるごとに、彼らの鳴き声も次第に大きくなっていく。
 気が付けば、もう数え切れないくらいたくさんのトノサマガエルがいるではないか。僕はすっかり合唱の中に取り残されてしまった。「グルルル、ゲゲゲゲ…」目の前で懸命に鳴き続ける彼らの姿に、僕はかつての「とのさん」の力強さを覚えずにはいられなかった。
 出来上がった写真のトノサマガエルの大きな眼には、僕の姿が小さく映し出されていた。僕たち、カエルたちを取り巻く環境はそれぞれ変わってしまったけど、いつまでも変わらない昔の記憶がそこにあるような気がした。
(文と写真:NPO法人コウノトリ市民研究所主任研究員 竹田正義)
※2006年5月28日掲載